熊谷連続殺人事件
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5.刑事裁判
5.1.第一審・さいたま地裁(裁判員裁判)

第1回公判(2018年1月26日、冒頭陳述)[編集]


2018年(平成30年)1月26日、裁判員裁判の初公判がさいたま地裁(佐々木直人裁判長)で開かれた[57][58][59][60][61][62][63][64][65][66][67][68][69]

冒頭陳述で、検察側は「被告人は、金を奪う目的で6人を殺害した」[61][60]、「発見困難な場所に遺体を隠したり、血痕を拭ったりするなど、自己防衛的な行動を取っていることから、違法性を認識していた」と指摘した[69][61][60]

その上で、「被害妄想はあったが幻覚や幻聴はなかった」と述べ[69]、完全な責任能力があることを主張した[61][60]

また、証拠調べで検察側は「最初の被害者宅の室内などに、被告人のものとみられる足跡があった」、「現場に残された飴玉などに付着した唾液のDNA型を鑑定したところ、被告人のものと一致した」などと主張した[69]

一方、被告人は、被害者遺族がいた傍聴席をにらみつけたり[63]、裁判官から起立するよう促されても動こうとしなかったりなど、公判を傍聴していた女性曰く「話を聴いていない印象で態度がよくない」様子で、裁判長から警告される一幕もあった[64]。弁護側は同日、罪状認否を留保した[60]

その後被告人は、裁判長から「起訴内容に間違いはないか」と問われると、数分間沈黙したあと[60]、「私もカップを頭の上に置いた」など[64][65][66]、裁判とは全く関係ない[60]、意味不明な発言をした[61]

被告人の弁護人を務める弁護士・村木一郎は[70]、「被告人は事件について語れない」として、認否についての意見を留保した上で、「犯罪が成立するとしても、被告人は心神喪失状態だった」として、無罪を主張する方針を示した[61][60]

第2回公判(2018年1月29日、証人尋問)[編集]


2018年1月29日、第2回公判が開かれ、証人尋問が行われた[71][72]

最初の犠牲者となった夫婦の長男は、両親を失ってから2年となる現在の心境について、「生まれてくる孫の顔を見せたかった。寂しい気持ちはあるが、仕事を一生懸命やることが、両親への一番の供養になると思う」と語った[72]。その上で、「犯人に一番重い処罰を望む」として、死刑判決を求めた[71]。また、110番通報者となった、夫婦妻の知人女性も出廷し、「無罪は絶対にありえない」と主張した[71]

第3回公判(2018年1月30日、証人尋問)[編集]


2018年1月30日、第3回公判が開かれ、証人尋問が行われた[73][74]

第3の事件で、妻と娘2人を失った被害者遺族の男性が出廷し、被告人への量刑について「絶対に許さない。死刑以上の判決があるなら、それを望みたい。3人が苦しんだ以上の苦しみを3回味わわせたい」として、可能な限りの厳罰を求めた[73][74]

第4回公判(2018年1月31日、証人尋問)[編集]


2018年1月31日、第4回公判が開かれ、証人尋問が行われた[75][76]

事件直後、負傷していた被告人が逮捕前に入院していた病院の担当医師が、証人として出廷した[75][76]。医師は、「被告人は意識を回復した直後、自分が声をかけると、1分間のやり取りの中で、間をおいて『2人、殺した』と言葉を発した」と証言した[75][76]

同日、被告人の17歳年上の実姉も、証人として出廷した[75][76]。姉は、「実家は貧しく、父が家族に暴力を振るうなど粗暴な性格だった。兄が犬を殺し、家に内臓を持ち込むこともあった」、「来日後に一緒に暮らしていた際、弟(被告人)が、『黒い影が現れて寝かせてくれない。家の中に悪いものがいる』と話していた」、「法廷での弟は、目が合っても無表情で、まるで別人みたいだ」と証言した[75][76]

第6回公判(2018年2月2日、証人尋問)[編集]


第5回公判が2月1日に開かれたのち[56]、第6回目公判が、2月2日に開かれた[77]

事件当時、捜査を担当していた熊谷警察署の元署員が、証人として出廷した[77]。元署員は、「被告人は、住宅に侵入し、熊谷署に連行された際、神奈川県に住む姉に対し、署内で電話をかけていた」と明らかにした[77]

その上で、当時の様子について「だんだんと感極まるような泣き出し方をした。どうしたのか尋ね、電話を替わろうとすると、被告人は、通話を切ってしまった。その後、別の警察官と共に、トイレ・喫煙所に行き、警察署の交差点を突っ切って逃走した」と証言した[77]

第8回公判(2018年2月7日、証人尋問)[編集]


第7回公判が2月6日に開かれたのち[56]、第8回公判が、2月7日に開かれた[78]

同日、被告人の姉が証言台に立ち、事件直前に弟と電話した内容について証言した[78]

被告人は、事件前日の12日、13日に、それぞれ複数回、姉と電話で会話した。最後の会話となった13日午前の電話で、被告人は「アパートの1、2階に住む、ペルー人とブラジル人が、『殺す』と言っている」と話したという[78]

事件当時の被告人の様子について、姉は「弟は当時、とても焦っておびえていた。意味不明なことを話していた。その原因は、寝不足によるストレスではないかと思う」と証言した[78]。また、被告人の人柄について、姉は「けんかしている2人がいたら仲裁に入るタイプだ」と答えた[78]

第9回公判(2018年2月9日、被告人質問)[編集]


2月9日、第9回公判が開かれ、被告人質問が行われた[79][80][81][82]
[83][84][85][86][87]

被告人は、最初の約10分間は弁護人が何を尋ねても言葉を発せず、うつむいていた[86]。その後、弁護人から、「日本で人を殺害したことがあるか」と質問されても[79][81][85][86]、スペイン語で「覚えていません」と[87]、計5回にわたって繰り返した[79][81][85][86][87]

その後、検察官から同様の質問をされると、被告人は「人たちを殺した」と述べたあと、「それは私ではない」と話した[79]。検察側は、「被告人は事件前、周囲に『ヤクザに追われている』と話していた」と言及した上で[87]、「あなたが話していた『ヤクザ』とは、どんな特徴や服装の人か」と質問すると、被告人は「私が6人を殺した」と返答した[79]。しかしその後、被害者参加弁護人が「あなたは先ほど『6人殺した』と言ったか」と確認すると、被告人は「私がそんなことを言ったのか」と述べるなど、答えになっていない回答をした[79]

このほか被告人は、「その文化は私にはどうでもいい」[87]、「私は耳が聞こえないし、目はひとつしかない。歯がない」[84]、「人肉を食べさせられた」、「猫が自分に言った」、「天使が落ちてきたから、耳鳴りがした」など、質問とはまったく関係ない[87]、意味不明な発言を繰り返したり[81]、起訴内容についての質問には、沈黙していたりと[82][85]、会話がかみ合わない場面が見られた[87]

その後、被害者参加制度を利用して出廷した、妻子3人を奪われた第3の事件の遺族男性が被告人に質問した[80]。男性から、「あなたは家族を大事にしていますか」と問われると、被告人は「大事です」と返事したが、「その家族が全員殺されてしまったらどう思うか」という質問に対しては明確に答えないなど、ちぐはぐな言動を繰り返した[80]

第10回公判(2018年2月13日、証人尋問)[編集]


2月13日、第10回公判が開かれ、証人尋問が行われた[88][89]

同日、弁護側の請求により、起訴後に被告人の精神鑑定を行った精神科医が出廷し、「被告人は事件当時から現在に至るまで統合失調症の状態にある」と証言した[88]

医師は被告人の現在の精神状態について、「自発的な行動や、周囲への反応が少なく、幻聴もある」と指摘した[88]。その上で、事件前の被告人の精神状態に関しては、本人の「追われている」などの証言や、熊谷署に所持品を残して逃走したことなどを挙げ、「切迫した身の危険からの逃避行中に、犯行が行われた。状況を誤って、被害的に確信しており、突発的・衝動的な行動が、事件に影響した可能性がある」という見解を示した。

また被告人は、被害者の遺体を遺棄したり、盗んだ携帯電話や車の鍵を隠したりするなどの行動をとっていたが、この点についても、医師は「全体として、精神障害の症状がみられ、誤った思い込みによる行動の中で、犯行が起きている。被告人がどこまで、犯罪としての認識を持っていたかは、慎重に判断しないといけない」と述べた[88]

第11回公判(2018年2月14日、証人尋問)[編集]


2月14日、第11回公判が開かれ、前回公判同様、弁護側の請求で行われた精神鑑定を行った精神科医が証人として出廷した[90][91]。この公判で実質審理が終了した[90]

精神科医は、「被告人は、犯行時は統合失調症であっても、一般論として『人を殺害することは悪いことだ』と理解しており、善悪の判断はついていたといえる」と証言した[90][91]

その一方で、被告人が殺害行為を理解していたかについては「被告人は、『命を奪っている』ということは認識していたと思うが、『なぜ、命を奪っているか』など、詳しい事情を理解していたかは分からない」と証言した[91]

また医師は、被告人が事件前に知人に対して語った、「追われている」「殺される」などの被害妄想・精神的不穏が犯行に影響した可能性を指摘した上で、「妄想や不穏がなければ事件は起きなかったと思う」と証言した[90]

医師はこれに加えて、被告人が事件現場となった複数の住宅で財布を物色したり、遺体を隠したりしたとされる行為についても、「妄想で説明がつくかどうか、何か現実的な理由があるかどうかなどは、本人の口から一切説明が得られないので、判断できない」と語った[90]。そして、「公判前の鑑定時も、9日の被告人質問でも、被告人の心の中での事実がどうなっているか意味のある答えは得られなかった」と証言した[90]

第12回公判(2018年2月19日、検察側論告求刑・弁護人最終弁論)[編集]


2月19日、検察側の論告求刑・弁護人の最終弁論が行われ、検察側は、被告人に死刑を求刑した[92][93][94][95][96][97][98][99]

この日は論告に先立ち、被害者遺族の意見陳述があった[99][100][101][102][103][104][105][106][107][108][109][110][111][112][113][114][115][116][117]。3件目の被害者である妻子を失った遺族男性は、「(犠牲となった)妻の人生、娘の人生は何だったのか。自分の家族が殺されて突然一人になったらどう思いますか」などと、裁判員らに訴え、「被告人を許せない」と述べ[99]、死刑判決を求めた[92]。また、同様に死刑を求める2件目の被害者の妹の意見書も読み上げられた[92]

検察側は論告で「遺体を隠したり、血痕を拭い取ったりなど、犯行を隠蔽するような行動を取っていることなどから、被告人には責任能力が認められる」と主張した上で[97]、「まったく落ち度のない他人の生命を害することで、利欲目的を達することなど到底許されない」「極めて残虐で冷酷非道な犯行だ」と指弾した[95]

一方、認否を留保していた弁護人側は、最終弁論で「検察側は、被害者らに対する強盗殺人罪を主張するが、被害者らの家に入ったのは『自分が追われている』という妄想により『追跡者から逃れるため』家に入ったと考える方が自然だ」と主張し、「強盗殺人罪は成立せず、殺人罪・窃盗罪に留まる」と反論した[98]。その上で、「被告人は犯行当時、統合失調症の圧倒的影響下にあったため、善悪の区別がつかなかった。犯行を思いとどまれなかった疑いが残るなら、裁くことはできない」と訴え、心神喪失状態だったとして、無罪を主張した[98]

これまでの公判で、意味不明な発言を繰り返したり[118][119]、質問に対して明確に答えなかったり[120]、裁判官の指示に従わなかったりしていた被告人は[121]、最終意見陳述で佐々木裁判長から発言を促されたが、何も話さなかった[96]。このため、公判を通じて被告人からは事件の核心に触れるような発言がないまま結審を迎えた[96]

第13回公判(2018年3月9日、判決言い渡し)[編集]


2018年3月9日、判決公判が開かれ、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)は、検察側の求刑通り、被告人に死刑判決を言い渡した[122][123][124][125][126][127][128][129]
ペルーでは1979年以降死刑が執行されておらず、通常の殺人事件における死刑制度を廃止している。

死刑判決の際は判決主文を後回しにし、判決理由を先に朗読することが多いが、さいたま地裁は同日、死刑判決の主文を後回しにすることなく、冒頭で言い渡した[123][127][128][129]

被告人は、佐々木裁判長から促されて証言台の前に立ち、死刑判決を聞いた[127][128]。その後、裁判長から着席を促されたが、すぐに動かず、3回目の催促でようやく指示に従った[127][128]

判決理由で、さいたま地裁は「人命を奪う危険な行為と分かって犯行を行っていたことは明らかだ」として、検察側の主張通り、被告人が犯行当時明確な殺意を有していたことを事実認定した[126]。その上で、現場から検出された唾液と被告人のDNA型が一致したことや、「被害者たちの死亡に直接関与したことが認められる」として、強盗殺人罪3件などの成立についても、いずれも検察側の主張通りに事実認定した[126]

また「車を奪うなど、金品を得るために一貫した行動を取っていた」ことが認められることや、現場で遺体を隠したことなどから、完全な責任能力を認める判断をした[127][129]

統合失調症により、被告人は犯行当時、心神喪失の状態だった」として、弁護人側が無罪を主張した点については「精神症状としての妄想が、それぞれの犯行に一定の影響を与えていることは、否定できないが、限定的だ」と指摘し、無罪主張を退けた[127][129]

判決に対する反応[編集]
第3の事件で妻子を失った被害者遺族の男性は、閉廷後の記者会見で、「当然の結果だと思い安心した。妻や娘に報告したい」[123]、「父親として家族に最低限のことができたと思う」と語った一方で、「被告人からは謝罪もないので、怒りと憎しみが変わらずある」とコメントした[127][129]

裁判員の1人は閉廷後の記者会見で、「事件当時の被告人の精神状態について判断は難しかったが、裁判官・裁判員の全員で1つ1つの証拠について協議し、客観的に判断した」「この事件を防ぐことはできなかったのか、警察など関係機関が反省すべき点はあると思う」とコメントした[127][129]

また別の裁判員は、「被告人は事件当時、正常な判断ができていたと思う。被害者遺族に謝罪してほしかったというのが率直な思いだ」とコメントした[127][129]

第3の事件で犠牲になった当時小学生の姉妹が通っていた熊谷市立石原小学校の校長は、2015年4月に赴任してわずか5か月後、教え子2人を事件で失った[124]。校長は、『埼玉新聞』の取材に対し、「本校の子ども2人の尊い命が奪われたという事実は変わらない。改めてご冥福をお祈りしたい」と語った[124]

弁護人側控訴(2018年3月9日)[編集]
被告人の弁護人を務めた弁護士・村木一郎は閉廷後に被告人の完全責任能力を認めたこの判決を「統合失調症が犯行に影響を与えたと認定したにも拘らず完全責任能力を認めるとは滑稽な判決だ」と批判した上で、判決を不服として同日付で東京高等裁判所控訴する手続きを取った[122][127][129]

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出典:Wikipedia
2019/06/15 00:32
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