はやぶさ (探査機)
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4.構造
4.1.バス系
構体は、内部に電子機器や推進剤タンクなどを収容し、宇宙空間での温度差からそれらを保護すると同時に、内外の機器類の固定用強度部材となる[31][25]。 主要なコンピュータとして、データ処理計算機(DHU)と姿勢軌道制御計算機(AOCP)がある。これらのリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)は、DHUにはμITRON、AOCPにはVxWorksを使用している[33]。他に、イオンスラスタ制御装置(ITCU) などがある[34][35][25]。 地球との通信を行うアンテナは3種各1基が備わっていた。これらのアンテナはデジタル送受信機と接続され、制御装置と地球の地上局との間を電波通信によって接続するのに用いられた。探査機の姿勢や電力状況によって3種のアンテナは切り替えられ、いずれか1つが常に地球との通信を維持するようになっていた[25]。 最大のアンテナは1.6メートルのパラボラ型高利得アンテナ (HGA) であり、イトカワ近辺まで近づいた超遠距離でも、画像伝送を含めた2 - 4 kbpsでのデジタル信号の通信を行えた[36]。HGAはz+軸方向に向けて機体に固定されており、0.7度ほどの細いビーム波であるため、正確に地球と通信するためには高精度の姿勢制御が要求された[37][25]
中利得アンテナ
中利得アンテナ (MGA) は、巡航中で通信量も少なく、むしろ太陽電池で発電した電力をイオンエンジンへ優先して配分する必要がある期間に用いられた。ある程度の正確さで地球方向へ向けられれば、最大256 bpsで通信が行えた[38][25]
低利得アンテナ
低利得アンテナ (LGA) は、HGAの頂部に付けられており、機体本体や太陽電池の方向、若干の電波干渉方向などを除けば、地球の位置に関わりなく全周方向への通信が行えたが、これは緊急用の通信手段であり、8 bpsときわめて低速度の通信であった。LGAを用いなければならないほど、逼迫した状況下での緊急通信用の通信手段として「1ビット通信」という通信機能が用意されていた[39][25]。 太陽電池パネルは本体を挟んで両側に3枚ずつ、計6枚が全体としては「H形」になるよう配置され、z+軸方向に向けて固定されている[40]。太陽電池パネルの裏面は放熱板である[25]
電池
11セルのリチウムイオン充電池を搭載していた[41][25]。 「はやぶさ」には軌道制御を行うための主推進機としてマイクロ波放電式イオンエンジンμ10を中心とするイオン・エンジン・システム (IES) が搭載されていた。μ10はスラスタAからスラスタDとして、計4台が搭載され、他にも多数の装置と組み合わされて宇宙探査機の推進システムとして用いられた。また、姿勢制御にも用いられるRCSが軌道制御にも使用された。 IESの構成を示す。「はやぶさ」のIESは「μ10」イオンエンジンと呼ばれるスラスタを4台持ち、それを駆動する直流電源を3台備えるので3基のエンジンまで同時に運転できる。
「μ10」それ自体はイオンの生成・加速部に過ぎず、燃料供給系や中和器、電源系などとともに用いられることで本来の性能が発揮できる。以下に全体の構成を重量とともに示す。 本エンジンは燃料としてキセノンを用いており「イオン生成」「静電加速」「中和」という3段階を経て、キセノン・イオンが約30km毎秒ほどの加速を受けて真空の空間のほぼ一定方向へ放射する仕組みになっている。この陽イオンの放出による反動が、1基あたり8ミリ・ニュートンの定格推力を生む[25]

イオン生成には電子サイクロトロン共鳴 (ECR) という現象を利用している。燃料タンクから流量制御部を経由してイオン生成チャンバー内に導入された希薄なキセノンガスは、マイクロ波による加熱でプラズマされ、電子とキセノン・イオンに電離する。チャンバー壁面が正電圧に印加されているため、負の電荷を持つ電子は生成と同時に壁面へ引き寄せられて比較的短時間に消滅する。反対に正の電荷を帯びたキセノン・イオン (Xe+) は、チャンバー壁面から軽く反発を受けゆるやかに蓄積してゆく。4.25GHzのマイクロ波と1500ガウスの永久磁石によって脈動する電子流が作られ、この高速電子がキセノン原子に次々に衝突することでイオン化を起こす[25]
静電加速
イオン生成チャンバーに溜まった希薄なキセノン・イオンのガスは、真空中に向けて唯一開口しているグリッドの穴から出て行こうとする。炭素繊維強化炭素複合材料製のグリッドは「スクリーン」「アクセル」「ディセル」という3層から成るが、スクリーン・グリッドには+1500V程度が印加され、アクセル・グリッドには-300V程度が加わり、ディセル・グリッドは0Vの電圧レベルになっている。スクリーン、アクセル、ディセルという3枚のグリッドは0.5mm間隔で並び、それぞれ3mm、1mm、2mmほどの異なる大きさの900個近い穴があけられており、互いの開口位置が正確に合わされている[44]。正の電荷を帯びたキセノン・イオンは、1枚目の+1500V程度が印加されているスクリーン・グリッドを通過する過程で穴の縁から反発を受けて流出コースが細く絞られる。1枚目のスクリーン・グリッドを通過した直後に、2枚目の-300V程度が印加されているアクセル・グリッドに向けて、(1500 + 300 =) 1800 Vの電位勾配の強い加速を受ける。この加速がIESの推進力となる。3枚目の0Vの電位がかかっているディセル・グリッドは、低速なイオンがアクセル・グリッドに戻る事を阻止する働きをする。ディセル・グリッドはイオン・エンジンに必須というものではないが、μ10では長寿命化を求めて備えられている。チャンバー内には電離しなかったものや電離後に電子を吸収するなどしたキセノン原子が存在しており、中性電荷のこの原子はグリッドなどの制約を受けずに自由に飛び出すが、全体の量は比較的少なく、搭載燃料の無駄ではあるが許容されている[25]
中和
イオン生成を行いキセノン・イオンだけを宇宙空間へ放出すると正の電荷だけが失われ、そのままでは負の電荷が宇宙機に蓄積されて正の電荷を帯びたキセノン・イオンの投射効率が落ち、やがては正イオンの放出そのものが行えなくなる。この蓄積される負の電荷を電子の放出という形で正負をバランスさせる働きをするのが中和器である。中和器には-30Vほどの電圧がかけられる[45]。中和器内には、燃料タンクから流量制御部を経由して希薄なキセノンガスが導入される。イオン生成チャンバーと同様に、マイクロ波加熱によってキセノンガスはプラズマとなり、キセノン・イオンと電子に電離される。イオン生成過程と異なるのは、中和器の壁面が負電位であるため、電子は壁から反発を受けるがキセノン・イオンは引かれる。キセノン・イオンは壁に接すると電子を受け取ってキセノン原子に戻る。キセノン原子はマイクロ波加熱によって電離し、再びプラズマの一部となるので、キセノンは中和器内にある限り同じサイクルを繰り返す。電子は壁から供給され続ける限りキセノンを仲立ちにいくらでも生成されるため、中和器内に充満した電子は唯一の開口部から真空空間へ向けて流れ出す。中和器から出た電子は3層のグリッドを通過してきたキセノン・イオンと結びついてキセノン原子となる。イオン生成チャンバーと同様に、中和器内のキセノンガスやキセノン・イオンも真空中に漏れ出すが、その量は比較的少ないために、搭載燃料の無駄ではあるが許容されている。また、中和器で消費されるキセノンガスは、イオン生成チャンバーに比べると少量で済む[25]。 流量制御部は、1基だけの推進剤タンクから圧力を減じながら4基のスラスタへ必要に応じて適正な圧力でキセノンを供給するために設けられている。推進剤タンクの圧力は、当初は70気圧ほどもあり、運用によって消費されたが地球帰還時でも30気圧ほどあった圧力をスラスタが必要とする0.6気圧程度に下げる働きを果たす。このようにキセノンガスの流量と圧力を調整するために、高圧系と低圧系のそれぞれにラッチング・バルブと非通電時は常に閉じているバルブの2種類を2組と4組に並列にした冗長構成のバルブ群にされており、高圧/低圧の中間にアキュムレータ (ACM) と呼ぶ貯圧タンクを設けることで圧力調節を行っている。低圧側のバルブを閉じた状態で高圧側のバルブを開くと、推進剤タンクからアキュムレータにキセノンガスが流入する。高圧側のバルブを開けておく時間でアキュムレータ内に蓄えられるガス圧を調節する。適正な圧力になれば高圧側のバルブを閉じてから、4系統あるスラスタ側配管の適切な低圧側のバルブを開く。スラスタ側配管では各組ごとのイオン生成チャンバーと中和器が連接されており、片側だけを閉じたり開いたりはできない[46][47][48][49][25]。 直流電源 (IPPU 1 - IPPU 3) は、太陽電池パネルやバッテリーからの電流供給を受けて、キセノン・イオンの加速や中和器の電子放出の原動力となる。このような直流電源は、これまでの宇宙機でも長年培われた通信機用高圧電源技術であるため信頼性が高く、予備などを含めて4基になったスラスタに対しても電源は3台で十分だと判断され、実際にもトラブルは生じていない[50][25]。 3台の直流電源からのイオンエンジン駆動用の出力は、4基のエンジンに向けてリレーボックス (RLBX) によって給電が切り替えられるようになっていた[51][25]。 20ニュートンの推力を持つ2液式の軌道制御用も兼ねた姿勢制御スラスタ (RCS) が±z面の上下4つのそれぞれの角に計8基と±x面の左右に2基ずつの計4基で合計12基あり、軌道制御や姿勢制御に用いられた。RCSにはA系とB系の2系統の配管がある。[52]加圧に不活性なガスを用いている推進剤のタンクは、無重力環境では単にタンクにパイプを繋いだだけでは、その時々の液体の位置によって配管内に流れるものが液体であったりガスであったりして問題がある。燃料であるヒドラジンのタンクと酸化剤の四酸化二窒素のタンクのうち、燃料タンクはゴムなどの袋に充填され周囲から加圧ガスで押すようになっている。酸化剤は腐食性が強いので高分子化合物は用いられず、はやぶさでは金属製のベローズをタンクに収めることで腐食されずに加圧ガスで押すようになっていた。ノズル基部の噴射器から当初は最短で30ミリ秒の、運用中に改良して最短10ミリ秒のパルス状の噴射、もしくはそれ以上の必要な長さの噴射を行なえた。噴射された2つの推進剤は直ちに化学反応を起こして燃焼し、そのガスがノズルを広がりながら一方へ飛び出す反動が推力となるものであり、スケールの違いや加圧ポンプなどがない他は、大型の2液による液体燃料式ロケットと同じしくみだった[53][25]。 ゼロモーメンタム方式による3軸姿勢制御を行う本機では、姿勢制御装置として3軸3基のリアクションホイール (RW) を搭載していた。電力を使用することで角運動量を調節できるリアクションホイールは、RCSのように推進剤を消費しないので長期間の宇宙活動には適するが、機体のモーメントをホイール内に蓄積し続けると月単位では回転数が上限値を迎え「飽和」してしまうため、RCSのような何らかの方法で時折、機体外に無用な回転運動量を放つ「アンローディング」作業が必要になる[54][55][25]
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出典:Wikipedia
2018/10/20 13:30
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